168号 伊藤和也さんの写真展
先月2009年2月23日(月)、昨年夏にアフガニスタンで殺害されたNGO職員の伊藤 和也さんの撮った写真を紹介する番組、NHK特集「菜の花畑の笑顔と銃弾」 が放送されました。
お客様向けのメールマガジンで、一部の方向けにはこの番組のお知らせをした のですが、直前だったので、見逃した方もいるかもしれません。
伊藤さんの殺害事件については、当時かなり大きく報道されたので、ご存知だ と思います。
伊藤さんは2003年12月から、福岡のNGO「ペシャワール会」の職員としてア フガニスタンに入ります。それから武装グループに31歳という若さで殺害され るまでの約4年間の間に、約3,000枚もの写真を現地で撮りました。その写真 を紹介しながら、伊藤さんの現地での活動を紹介する番組でした。
番組を見て、伊藤さんがいかに現地の人たちから信頼されていたか、そして彼 が農業の指導員として、人々の生活向上のために努力を続けてきたのかが良く わかりました。
この番組を見た後、彼の活動に興味を持ち、伊藤さんの撮った写真の展示会に 行ってきました。
伊藤さんは静岡県掛川市の出身。私の生まれ故郷の隣町です。静岡の出身とい うことから、県内各地で写真展がこの冬くらいから開催されていて、私が行っ た3月1日は、沼津市で行われる写真展の最終日でした。これを逃すと、4月 まで待たないと静岡では行われないため、行ってきました。
会場で写真が撮れたら撮りたかったのですが、やはり撮影禁止だったため、伊 藤さんの撮った写真の紹介をすることはできませんが、下のリンクから、伊藤 さんの撮った写真の一部を見ることができるようになっています。テレビでも 紹介されていた写真です。
子供たちの笑顔に癒されるというか、本当に村人から信頼され、子供たちから も慕われてた人だということが、感じられる写真です。
http://f.hatena.ne.jp/rmayoran/20080905121909
写真展では、伊藤さんが撮った写真の中から、数十点を選んで展示してありま した。彼は「ワーカー」と呼ばれる農業の現地指導員だったので、当初は作物 の栽培の記録や報告を作るために写真を撮っていたのですが、そのうちに、伊 藤さんのカメラに子供たちが興味を持ち、寄って来るようになり、「写真を撮 って」とねだられるようになりました。それで子供たちの写真を撮っていると、 親たちも警戒を解いて、伊藤さんを信頼するようになったようです。
当初、記録の意味から撮っていた写真ですが、だんたんと近所の子供たちや 人々の暮らしの様子、自然な表情を撮った写真も多くなりました。
伊藤さんは地元の農業高校を出て、農業短大に進み、アメリカのカリフォルニ ア州の農家で経験を積んだ後、自分の技術を生かし、現地の人々に貢献したい と、ペシャワール会に入ります。写真を専門に勉強したことはないはずなので すが、とてもきれいで上手な写真を撮っていました。
農業が専門の伊藤さんですが、派遣された当初は、水路工事の現場監督の一人 として仕事をしていました。これはペシャワール会がアフガニスタン北部で行 っているプロジェクトで、干ばつにより砂漠化し、放棄された農地に水路を通 し、再び農業ができる土地にすることを目指しています。干ばつで農地を失い、 ゲリラになった人たちを、この工事に雇いました。
クナール川という川から取水し、全長21.5kmの水路を作る計画ですが、現在そ のうち18.5kmが完成しています。伊藤さんもその最初の方の2キロ分の工事を 担当。完成した後で、念願だった農業指導を行うために、工事現場の北の方に あるダラエヌール渓谷のペシャワール会の試験農場に赴任しました。
伊藤さんは、この試験農場で様々な作物の現地での栽培法を確立させ、村人た ちに食糧と収入を得られるようにしようと努力します。
写真展で紹介されていたのは、お茶と米、サツマイモ、飼料作物などの栽培で した。
お茶は、現地の人たちにとっておおきな楽しみだということ。イスラム教徒で お酒が飲めないため、お茶をよく飲むのです。ただ現地は乾燥しているし、ア ルカリ性が強い土壌のため、必ずしもお茶の栽培には適していません。ほとん ど枯れかけたお茶の苗の写真が展示されていました。
が、その後栽培がうまくいくようになったようで、テレビでは大きくなったお 茶の木を、伊藤さんと一緒に働いていた現地の人が家族で手入れをしている様 子を紹介していました。
お茶の栽培を始めたのは、ケシの栽培を防ぐためでもあります。ケシは麻薬の 原料となる作物で、やせた乾燥した土地でも作ることができます。干ばつに苦 しむ村人には他に現金収入を得る手段がないため、ケシ作りをする人が多くな っています。しかし、このケシから作った麻薬は、武装勢力の資金源にもなっ てしまう。それでお茶を代わりに栽培できないか、試行錯誤することになりま した。
会場に、伊藤さんのお母様がおられたので、「これは静岡のお茶なんです か?」と伊藤さんが撮った茶の木の写真前で聞いてましたが、「どうなんでし ょうねぇ、静岡のお茶なんですかねぇ」と良く分からない様子。
「なぜ、アフガニスタンに行くのか?とか、今何をしているのかとか、詳しい ことはほとんど話さなかった人のようで、親であっても彼がどんなことをして いたのか、あまり細かいことはわからないようでした。
「男の子なんてそんなものかもしれない」。
「(こういう仕事が)好きだったんでしょうね」と話していました。
日本米の栽培
この写真展に行くまで、アフガニスタンのような乾燥したところで、米の栽培 ができるとは思いませんでした。現地で栽培されている米の品種があるそうな のですが、伊藤さんたちは、日本の米を栽培しました。その方が面積あたりの 収量が良いし、自分たちも日本の米が食べられるということで、日本米の栽培 を始めました。
伊藤さんの指導のもと、田に紐を張って、真っ直ぐに等間隔で植える日本式の 田植え現地の人たちが行っている写真が、展示されていました。
伊藤さんのいたアフガン北部のダライヌール渓谷には、カライシャヒとブディ アライの2つの試験農場がありますが、両農場とも米の出来は良く、3年連続 で10アールあたり600kgの収穫がありました。
伊藤さんたちが持ち込んだ日本の米は、昨年現地の42戸の農家で栽培をしまし たが、10アールあたり450〜500kgの収量を確保。現地水準よりも1.5倍の収量 ということで、大評判になりました。
サツマイモの栽培
サツマイモは、戦後の日本の食糧難を救った作物。同じ栽培面積あたり水稲の 2倍の人口を養うことができる作物です。乾燥にも比較的強いことから、伊藤 さんはこれを現地に導入しようと考えました。今では栽培法が確立されて生産 体制が整い、子供から老人まで、現地の人たちにとても人気のある作物になっ ていますが、伊藤さんが栽培を始めた当初は失敗の連続でした。
そのときの様子が、NHK特集で紹介されていました。
伊藤さんがサツマイモの栽培を試験農場で始めたのは、2004年のこと。その年 は冷害で全滅しました。
翌年2005年の春、植え付けた苗の9割が根付き、伊藤さんは自信を深めます。 しかし、秋、掘ってみると、コガネムシの幼虫にすべてのイモが食われていて、 全滅状態でし
た。「畑全体が虫の巣のようになっている」と、伊藤さんは報告 しています。2006年、虫が発生しないよう、すべての種イモをたんねんに調べました。途中 までは順調に行っていたのですが、雹(ひょう)が降って全滅してしまいます。
2007年伊藤さんは、畑に菜の花を植えます。菜の花には畑の土を肥やす働きが あるのです。現地の人は、農薬や肥料を買うことができないために、その代わ りになるものとして、最適だと考えました。
伊藤さんが撮影したこの菜の花畑の写真は、花を摘み、無邪気に笑う少女の姿 と美しい菜の花畑、遠くに続く広大な山波の風景が映し出され、感動的な写真 になっています。
ペシャワール会の会報や、NHK特集でこの写真が、会報の表紙や番組の宣伝 で使われていました。
サツマイモは、この年にやっと栽培に成功します。
苗の温度管理の徹底。そしていつもの年より1ヶ月早く苗の植え付けを行うこ とで、秋に無事収穫を迎えることができました。どうやらできる限り早く苗の 植え付けを行うことが、現地の出の栽培成功の秘訣だったようです。
日本では年配の人は昔を思い出して嫌うことがあるサツマイモですが、現地で は子供から大人まで大好評で、とても人気のある作物だということです。
昨年2008年も、サツマイモの栽培に成功しますが、残念ながら伊藤さんはその 収穫を待たずに殺されてしまいます。
彼の確立した栽培法、そして種イモの冬季の保存方法などは、一緒に働いてい た現地の人たちに受け継がれ、試験農場は、サツマイモの苗の生産、管理セン ターとしての機能を持つようになっています。
菜の花基金
伊藤さんは、派遣された村が気に入り、また村人たちからも、「イトー」と呼 ばれ、信頼され、親しまれていました。村の集会場にもなるモスクの建設に、 自分お金を20万円も寄付したり、自分の牛を買うなどして、ずっと村で暮らそ うと考えはじめていたようですが、昨年8月26日、武装した男たちに連れ去ら れ、志半ばで殺されてしまいます。犯人は、金目当てで外国人を狙うよそ者で した。
そんな伊藤さんの遺志継ぎ、アフガニスタンの平和と復興を目的とした基金を、 ご両親が設立しました。
昨年9月1日、地元の静岡県掛川市で伊藤さんの葬儀、「お別れ会」が開かれ ました。そのとき、名前も書かずに香典を置いていく人が絶えなかったといい ます。5日には「第15回読売国際協力賞」特別賞を贈られ、その賞金や香典な どを使って両親は基金を設けることにしました。
先ほどご紹介した和也さんが撮った菜の花畑で少女が笑っている写真から、基 金の名を取りました。使い道は、現地の人などと話し合って決めるとのことで す。
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編集後記
伊藤さんの殺害事件の後、彼の属していたペシャワール会では、現地で活動し ていた若いワーカー(技術者)を帰国させ、現地代表の中村医師だけが残って 水路の残りの部分の工事を行っています。
NHK特集では、中村さんが自らパワーショベルを運転して工事を行っている 様子が紹介されていました。無事に工事が終わって、砂漠化した土地に緑が戻 り、人々の生活が安定するようになることを祈ります。
ペシャワール会が行っているような用水路建設のような土木工事は、日本のO DAでは得意とするところで、他のアジアの地域には余計なダムとかは氏とか いろいろなものを多額の予算をかけて建設していますが、アフガニスタンで 人々に必要とされているようなインフラの建設には、お金を出さないようです。
「テロとの戦い」ということで、インド洋での給油活動にはいそいそと参加を しますが、そういう軍事活動への参加が、対日感情を悪化させ、伊藤さんたち のような善意の活動をする人たちの安全を脅かすことになっている部分もあり ます。
それまで車両に描いていた日の丸が、安全のために消されることになったと、 NHK特集の中で言っていました。
伊藤和也さんの撮った写真の展示会が、これから各地の市民グループや行政の 主催で開かれることになっています。本当に素晴らしい写真、そして展示内容 なのでぜひ、近くで開催される際にはぜひ、行っていただきたいと思います。
今月から来月4月にかけては、福岡や愛知、京都、仙台で開催されます。伊藤 さんのお母様は、「本当は、ニューヨークで開きたいんです」と言っていまし た。
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