193号「フェアトレードの紅茶」はウソ!?
2009年 9月25日発行
フェアトレードの紅茶、というかフェアトレードラベルの付いた紅茶が、日本 でも目にする機会が多くなってきました。以前からラベル付きのコーヒーは、 スターバックスや大手スーパーなどで売られてきましたが、フェアトレードラ ベル付きの紅茶も最近は目にする機会が増えています。
が、そのフェアトレード紅茶、看板に偽りがあるのではないか?という報道が 最近なされました。NHKのBS放送の番組なので、見た人はそんなに多くな いと思いますが、日本のフェアトレードラベルの認証機関「フェアトレード・ ラベル・ジャパン」は、番組への反論を、サイトに掲載していました。
BSドキュメンタリー「“苦い”紅茶」で語られた労働者の生活
問題となっている番組は、NHKBSで9月2日に放送されたBSドキュメンタリー「“苦い”紅茶」という番組。
番組はNHKで作ったものではなく、海外のものでした。”The Bitter Taste of Tea”が原題で、「 制作:Borgen Production & Heinemann Media ノル ウェー/デンマーク 2008年」。デンマークほか、数カ国で放映された番組だ ということです。
番組は、実際にフェアトレードの紅茶を作っているとされる農園を訪れ、働い ている労働者の話を聞き、生活実態を取材して作られていました。スリランカ、 インド、ケニア、バングラデシュの20に及ぶ紅茶農園を取材した結果、言わ れているようなフェアトレードの趣旨とはかけ離れた労働者たちの生活実態が、 明らかになりました。
また、「フェアトレード・プレミアム」と呼ばれるフェアトレード商品の価格 に上乗せされているお金は、現地の労働者の生活の向上に使われなければなら ないことになっているわけですが、全くそうなっていなかった。労働者たちは、 フェアトレード・プレミアムの存在すら聞いたことがないという実態が明らか になりました。
たとえば、スリランカのケリーワッテ茶園などのフェアトレードの茶園とされ ているところでは、一般の茶園とほぼ同じように、労働者が過酷な生活を強い られていました。
茶摘みは、女性たちの仕事。日本と違って機械で刈り取るのではなく、手で新 芽を摘みます。私は静岡県人で実家でお茶を作っていて、昔よく茶摘みをした のでわかりますが、手で摘むというのは、見た目よりずっと重労働です。日本 より茶の木が大きいので余計にたいへんなのではないかと思います。
労働環境も非常に悪い。女性たちが背負う茶のカゴは10kg以上になるし、 畑にはヒルや蚊、ヘビがいます。足元にヒルがうようよいるようで、ヒルにか まれていた人の映像もありました。
男たちの仕事は、茶畑に茶の木を植え付ける作業や、茶工場での加工の仕事。 こちらも労働環境が悪い。作業中に亡くなった人もいると言っていました。また、フェアトレードの農園は農薬は使わないイメージが日本人にはあります が、そんなことはなく、農薬散布の様子を写した映像がありました。
労働者たちは、ゴーグルも付けず、裸足で農薬を散布しています。一応、農園 主は防護用具を付けるように呼びかけているといいますが、指示や教育が徹底 されていないようです。
番組では労働者の生活の様子も取材していました。彼らの住む家は、農園主が 建てたもの。しかし、農園というのが日本のそれとは規模が桁違いで、村全体 が一つの農園といった感じです。労働者たちは、農園の中の農園主の所有する 家に住み、仕事に通います。
家はとても粗末で、トタンでできた小屋みたいな感じです。雨が降ると雨漏り がすると言っていました。日本でいえば1Kくらいの部屋に家族全員で、とき には他の家族とも住んでいることも。
フェアトレード・プレミアムは、そんな労働者の生活を改善するために支払わ れているもののはず。なのに、彼らの居住環境の整備には使われないのだとい うこと。なぜなら、彼らの住んでいる家は、農園主のものだから。
労働者たちの賃金は低く、給与制ではなく、出来高払い制。その地域の最低賃 金の半分にしかなっていないことも。残業を無理強いさせられたり、正社員に しないために、3日ごとに解雇されたりもしています。
こんなことなら、植民地時代の方が良かったと言うお年寄りもいました。
テレビ局が取材した農園のフェアトレード認証を行っているのは、マックス・ ハベラー(スイス)という組織。ヨーロッパのフェアトレードのラベルの認証 機関の一つです。
しかし、「ラベル授与のための品質の基準となるのが、生産過程においての社 会的、環境的基準の遵守であり、また公正なる方法で商品化されていることで ある。」というこの団体の基準と、番組内容は、かなり開きが大きかったと思 います。
マックス・ハベラーは、フェアトレードの基準が守られているかどうか、農園 の査察を行いますが、その日程は事前に農園側に知らされます。労働者たちは、 別の場所に移動させられたり、口をつぐむように言われます。
前述のように、こうした農園はかなり大規模なところで、主な販売先は、リプ トンやコペンハーゲンの「ゲミ・ティー社」など。フェアトレードは一部にす ぎない感じがしました。
番組の担当者が、マックス・ハベラーの事務所で責任者に、取材した映像や労 働者たちの証言を見せたところ、「真摯に受け止め改善」する旨を約束しまし た。
番組の終わりに、コペンハーゲンビジネススクール助教授、スティーブン・ヴ ァレティン氏の見解が紹介されていました。
「フェアトレード商品は、普通の商品の隣にあり簡単に選べます。しかし、手を 引っ込めることも簡単です。上乗せされた金額の価値に見合うものでなければ、 買ってはいけないのです。」。
フェアトレード・ラベル・ジャパンの反論
この番組内容に対し、フェアトレード・ラベル・ジャパンでは、以下のように 反論をしています。
番組では、インドとスリランカのフェアトレード認証茶園が紹介されています が、いずれもフェアトレード条件の取引量が少ない茶園だけを取り上げ、フェ アトレードが労働者の生活改善に役立っていないと述べています。
番組制作者に対しては、フェアトレード認証に関する詳細な情報と証拠が提供 されていたにも関わらず、フェアトレード・ラベル運動の仕組みがこれまで成 し遂げてきた、途上国の100万人近い小規模生産者や労働者への具体的な利益 に関する事実は作為的に無視されています。
フェアトレード・プレミアム(*1)は、茶葉の取引量に応じて輸入業者から茶園 の合同委員会(*2)に支払われ、その使途は労働者の意見を取り入れ合同委員会 で民主的に決定されます。フェアトレード条件での取引先・取引量が少なけれ ば、当然受け取るプレミアム金額は少額なため、目に見えるような変化をもた らすことは困難です。番組で取り上げられた茶園はいずれもフェアトレード取 引量の割合が極端に少なく、その割合は平均して8%弱です。
この反論の内容は、いまひとつ理解ができませんでした。それでフェアトレー ド・ラベル・ジャパンに対し、質問のメールを昨日送りました。その内容を下に示します (見やすいように一部改編)。
「途上国の100万人近い小規模生産者や労働者への具体的な利益に関する事実 は作為的に無視されています。」(の部分について)
番組を見た限りでは、あの番組は、
フェアトレードがどんなに素晴らしいものかを知らせるものではなく、
その100万人に入っていない人たちが、
「フェアトレードの生産者」の中にもいるという事実を伝えたもので、
特段問題はないのではないかと思いますが、いかがでしょうか?事実と違うことを述べている部分がありましたでしょうか?
それからもう1点。
「番組で取り上げられた茶園はいずれもフェアトレード取引量の割合が極端に少 なく、その割合は平均して8%弱です。」
ここが特にわからないのですが、「8%弱」とは、何が8%弱なのでしょうか?
全作付(栽培)面積に対するフェアトレード条件で栽培され、取引される紅茶の木の割合でしょうか?
それとも、全労働者に占めるフェアトレード条件で雇われる労働者の割合でし ょうか?
番組では、そのような「フェアトレード取引量の割合が極端に少な」い農園が、
存在するということ自体を、問題にしていたのではないかと思いますが、
番組内容に何か事実誤認や情報操作的なものがありましたでしょうか?上記質問の後者が正しいとすると、番組では、
大多数のフェアトレード条件で雇われていない人たちの話(のみ)を紹介して いたのでしょうか?「8%弱」がもし、その農園の全売上金額に対しての8%弱だとすると、
紅茶の木の栽培方法も、労働者の雇用条件も、
フェアトレードと一般市場向けに売られる紅茶と全く分けていないことになります。そんなことはしていないと思いますが、もしそうだとすると、
一般の消費者が抱くフェアトレードのイメージとはかなりかけ離れたものにな ります。紅茶に限ってのことですが。お忙しいところたいへん恐縮ですが、お答えいただけましたら幸いです。
フェアトレード・ラベル・ジャパンからの返事はまだありません。忙しいよう なので、来ないかもしれません。
「取引量の割合が極端に少なく、その割合は平均して8%弱」というのが、テ レビ局側とフェアトレード・ラベル・ジャパン側(フェアトレードラベル推進 側)の認識の違いとして表れてくると思います。
「わかちあいプロジェクト」が、似たようなことをこの番組内容に対して言っています。
「フェアトレードで恩恵を受けていない」と労働者が言っています。これも事 実だと思いますが、なぜか? もう少し掘り下げて報道すべきだと思います。 おそらく多くの場合は、フェアトレードが悪くて、偽りがあるためではなくて、 フェアトレード条件の売上げが少なくて、恩恵が及ぶまでに至っていないとい うのが、主たる原因だと思います。
例えば年間10万円(ティーバックにすれば2トン)の奨励金しか受け取ってい ない紅茶園のJoint Bodyがあるとして、労働者の代表が民主的に選ばれて、す べての労働者に恩恵を実感できるまでに至らないのは当然です。
番組を作ったテレビ局側、すなわち一般消費者の視点やイメージで見たフェア トレードと、フェアトレード推進側の認識に大きなズレがあるのではなかとい う気がします。
そもそも「年間10万円の報奨金」しか受け取っていないような紅茶農園を、 どうして「フェアトレード」と認定できるのか?
「すべての労働者に恩恵を実感できるまでに至らないのは当然」だったら、 フェアトレードラベルが付いた紅茶を作っている生産者(労働者)は、 フェアトレードの名に値する生活ができていないことが多々あることになります。
そんなもの、フェアトレードと言えないのではないか?
というのが、消費者としての素直な感想ではないかと思います。
わかちあいプロジェクトの反論を見ると、私がフェアトレード・ラベル・ジャ パンに送った質問で、「そんなことはしていないと思いますが」と言った「そ の農園の全売上金額に対しての8%弱」だけの紅茶を、フェアトレードの割増 金を払って買っているというのが本当なのではないかという気がしました。
でも、まだ返事が来ていないので、何とも言えません。
返事が来たら、またご報告したいと思います。
【参考】
●○発行者について○● このメルマガの発行者、フェアトレード&エコロジーの店「ふぇあうぃん ず」は、フェアトレードで輸入された商品と、髪やお肌に優しいシャンプー、 水を汚さない洗剤などのエコロジー商品を扱う通販専門店です。 本当に良い商品、生産者にとっても、お客様にとっても幸せにつながる商品 を、厳選してご紹介しています。合わせて、貧困・環境問題などに関する情報 発信も積極的に行っています。 店主は元フェアトレード団体スタッフ。自身の経験も交えながらこのメルマガ を書いています。 ■フェアトレード&エコロジー商品専門店「ふぇあうぃんず」 http://fwinds.jp/ ■ブログ「エコロジーショップ経営日記」 http://www.jski.net/ecoshop-diary/ 発行:フェアトレード&エコロジーの店「ふぇあうぃんず」 静岡県浜松市中区下池川町23-5 Cozy Court205 http://mscience.jp/index2.htm Mail: info@mscience.jp メールマガジンのバックナンバー集⇒ http://fwinds.jp/mail-magazine/ 配信中止はこちら⇒ http://www.mag2.com/m/0000120655.htm ※本メールマガジンの著作権は、発行人にあります。無断転載、配布、 商用利用等を禁止します。
編集後記
今回取り上げたのは、フェアトレードの中でもフェアトレードラベルの認証を 行う認証型のフェアトレードの話です。
日本のテレビでフェアトレードが取り上げられるときには、バラエティ番組の ような、報道とかジャーナリズムなどとは言えないような番組ばかりですが、 さすがヨーロッパはフェアトレードの歴史が古いせいか、深く掘り下げた番組 を作ってくれます。
私はNHKオンデマンドというネット上で番組見られるサービスでこの番組を 見たのですが、疲れてるときに一度見ただけなので、良く覚えてなくて、再度 見ようとしたら、期限切れでもう見れなくなってしまっていました。
番組内の細かいデータ的な情報は、下のブログのものを参考にしました。
日本のたとえば、ピープルツリーとか、ネパリバザーロのようなフェアトレー ドラベルを使わないフェアトレード組織の紅茶の場合、農園全体がフェアト レードの農園になっています。フェアトレードの農園というのは、栽培時に農 薬は使わないし、働く労働者の待遇や生活も保障されているというか、他の農 園などよりも良い暮らしができているような農園です。
インドのマカイバリ農園というフェアトレードとして紅茶を出荷している農園 に行ったことがあります。農園で働く人たちは、なかなか良い暮らしをしてい ました。家の屋根には大きなパラボラアンテナがあって、衛星放送を受信して 見ていると言っていました。
これだけを取り上げれば、私より良い暮らしをしています。
が、衛星放送はあるのに、家にトイレがないと言っていました(爆)。
山でするのだそうです。
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143号以前のバックナンバーは、フェアトレード情報室のサイトで読むことができます。
貧困問題の背景が学べる本
フェアトレードを主題にした本より、むしろ研究者やジャーナリストが中立的な立場で書いた本の方が、 フェアトレードが必要になる背景や貧困問題について学ぶのに役にたちます。
写真は、「世界の工場」となっている現在の中国における生産現場の末端の労働者の悲惨な状況を告発した本、中国貧困絶望工場 「世界の工場」のカラクリ 。
隣国に暮らし、文化的にも経済的にも結び付きが強い日本人として、無視できな内容です。
他にも世界の貧困の原因やそれを解決するための取組、 そしてフェアトレード・ラベルへの批判を書いている本もご紹介しています。
メールマガジン「貧困のない世界を作る!フェアトレードの話」について
当店で発行しているメールマガジン「貧困のない世界を作る!フェアトレードの話」は、
フェアトレードと貧困問題を扱う日本で最初のメールマガジンです。
フェアトレードや貧困問題に関する最新情報を、わかりやすく解説。
そのほか、児童労働、奴隷労働、貧困といった深刻な社会問題の背景や意味を、
専門知識のない方でもわかるように優しい言葉で解説したり、
そうした問題の解決のために行われるフェアトレードをはじめとする活動について、
毎回ご紹介したりしています。
時にはフェアトレードの業界のもつ問題点を指摘する記事を書くこともあります。
元フェアトレード団体スタッフの店主が、自身の経験などを交えながら、 フェアトレードやその背景について解説するメールマガジンです。
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